白い舟と雲

過去との和解で迎えた朝に

比較を均す風は吹く

黄金に煌めく稲穂は頭を下げて

心を象る雲と挨拶を交わした

遠のいた日が広がる海で

愁いを乗せた舟を見送り

滴り落ちる水の中を通過すると

これまで見落とした景色の重層に包まれた

あなたは私たちの贈り物だった

その姿をまた見られるように

今はリボンを掛けておきます

鳥の巣

帰路には種々の道があり

色彩や音色は偶然を装いながら 人々の元に訪れる

情感を持って生まれた私たちは

互いの為の便りであった

大地と海を祝福の詩でめぐる日々には

雀躍の羽が落ちている

自分自身を許した黄昏に

命はゆっくり透けてゆく

人の胸に甦る星の光耀を

裏返したままの深遠な夢を

誰もが みられるように

 

虹色のスープ

あなたは 休息で凝固した銀のスプーンを大地に並べ

これまで手放した鋭い言葉や哀しみで滲んだ布切れを

祝福の側面として

無条件の中で彩られた世界に織り込んでくれた

あなたは 生命を水差しいっぱいの新しい理解で充してくれた


儚い幻か

真昼が過ぎ 天井から吊り下がるロウソクに 火を灯すと

今まで見えなかったものが見えた


創造の森を飛び回り

魂の調べを歌う 小鳥の姿が

かごの外で揺れ動く

今よりもひと回り大きな 幼年時代の私の姿が

 

今日は彼らのおもいで

 

雲の間に見える空

緑が敷き詰められた丘の上には アポロの橋

私はその橋の上で目を閉じた

今ここは大いなる海の中

喜びも悲しみも一つの波で

人は宇宙の希求

陽光は闇をも愛した

今私たちは鏡の中

死は一つの色彩で

一世は万華鏡

私は雲の間をゆっくり閉じた

 

兎と空想う

 

朝日が昇るまどろみの中

かなぐり捨てた美の知覚を呼び覚ました。

身近で遠いおとぎの国では

全土に散らばる叡智が、泡のようにいくつも浮かんでいる。

一つの泡がはじけ、泡から泡へ音が共鳴してゆく。

その音で私はある事を思い出した。

なんでも回帰を夢見た乙女は

朝日を眼に映し、願望に含まれる引力に乗って空を滑ると、

一夜で世俗を星に変えたという。

愛しの人よ

私があなたに映せるものは一つしかありません。

それは純白な硝子と沈黙から成る詩編です。

きっと新しく生きるあなたの妨げにはならないと思います。

というのも、今では遠い昔の空想ですから。